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札幌地方裁判所 昭和45年(行ク)2号 決定

申立人 花崎皋平

被申立人 北海道公安委員会

訴訟代理人 岩佐善巳 外五名

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一  本件申立の趣旨および理由は別紙一、二記載のとおりである。

二  疎明によれば、札幌ベ平連(札幌ベトナムに平和を!市民連合)では昭和四五年四月二八日のいわゆる沖縄デーの集団行進および集団示威行進を計画し、札幌テレビ塔下午後六時三〇分出発午後八時テレビ塔下解散の別紙一記載の本件申立書添付のコースを定め、同月二七日午後二時三〇分札幌ベ平連所属の村山トミが札幌中央警察署警備係に対し口頭で、「集会、集団行進および集団示威運動に関する条例(昭和二五年札幌市条例四九号)(以下「市条例」という。)一条による集会、集団行進および集団示威運動(以下「集会等」という。)の許可を申請したこと、札幌中央署では直ちに北海道警察本部(以下「道警本部」という。)に問い合わせた結果その指示によりこれを受理しないこととして、その旨を村山に告知したこと、ついで、同日午後五時一五分頃申立人が札幌中央警察署内勤務当直に右事情の説明を求めてきたので、同署では再び道警本部に問い合わせ、その指示にもとづき受理できない旨を申立人に伝えたこと、その後同日午後七時四〇分頃申立人が市条例二条所定の形式をそなえた書面による許可申請をなしたが、同日午後七時五〇分頃被申立人はこれを受理しない旨を札幌中央警察署を通じて申立人に告知したこと、右不受理は、市条例二条によれば集会等を行う場合その代表者は七二時間前までに所定の事項を記載した許可申請書三通を所轄警察署を経由して提出しなければならないのに、札幌ベ平連では集会等の開始時刻の二八時間前に至りはじめて口頭で申請し、その後約二三時間前に至つて書面による申請をなしたもので、いずれの申請も市条例二条に違反し不適法であることを理由としたものであること、昭和三三年北海道公安委員会規程第一号、昭和四三年同委員会規程第三号によれば、道警本部長は、市条例の集会等に関する事項につき、不許可処分、許可取消処分、条件付許可処分、その他公共安寧の保持上に直接の危険をおよぼすおそれがある重要な申請の許可処分等を除き北海道公安委員会の名で、代行することができるとされている。

以上の事実によると、右許可申請の不受理は、北海道公安委員会(その代行機開たる道警本部長)によつてなされた七二時間前という時間制限違反を理由とする許可申請却下処分であると解さざるを得ない。

三  そこで、まず、申立人の集会等を仮に許可する旨の申立につき考えるに、右に述べたごとく集会等の許可は行政庁たる北海道公安委員会(代行機関である道警本部長を含む)が決する行政処分であるから、行政事件訴訟法四四条により民事訴訟法の規定する仮処分をすることができないものと解するのが相当である。よつて、右申立は理由がない。

また、申立人は許可不受理をもつて許可申請の不許可処分であるとし、その処分の執行停止を申立てているが、右不受理は前記のごとく許可申請却下処分であるから、右申立は前提を欠き失当である。

四  次に申立人の右申立には右申請却下処分の執行停止を求める申立も含まれていると解することができるので、この点について判断する。

まず、市条例二条の七二時間前までに許可申請をすべき旨の規定は国民の基本的人権である集会、表現の自由を規制するものではあるが、右規定は未だ合理的な理由がなく不当に制限しているとはいえないから、憲法に違反するものとはいえない。しかして、疎明によれば、これまでに右制限時間を遵守しなかつた集会等の申請に対して道警本部長の裁量によつてこれを受理し許可したこともないではなかつたことが認められる。しかしながら、やはり疎明によれば、申立人が右許可申請をした時点においては、既に一九団体から申請のあつた沖縄デーの集会等につき許可がなされ当日約一万七、〇〇〇人以上の集会等への参加が予定されていたため、道警本部長もこれに応じた交通の整理混乱の防止等の計画を完了していた関係上、申立人の許可申請を受理して改めて右計画を変更することは極めて困難であつたことが認められるから、到底、道警本部長において裁量により許可申請を受理する余地はなかつたものといわざるを得ない。

五  よつて、申立人の本件申立は全て理由がないから、これを却下し、申立費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 松野嘉貞 鈴木康之 岩垂正起)

別紙一

申請の趣旨

申請人が昭和四五年四月二七日申請した別紙記載の集団行進と集団示威行進を仮りに許可する。

との仮処分を求める。

申請の理由

一、申請人は札幌ベトナムに平和を!市民連合の代表者であるがかねてから昭和四五年四月二八日午後六時三〇分から札幌市内において集団行進と集団示威行進をするべく計画をしていたがコースの決定が遅れたこと、申請人の勤務の都合上申請手続がやや遅れ昭和四五年四月二七日午後二時三〇分頃、最初は村山トミ名義で札幌中央警察署を経由して北海道公安委員会に対し許可申請書を提出したが七二時間より前に申請がなされていないとの理由にて受理されなかつた。

二 なるほど札幌市公安条例第二条には、許可申請は集団行進等を行う目的の七二時間前までにしなければならないという規定がある。

しかし、右規定自体憲法に違反することはもち論、従来右規定の適用にあたつては遅延理由を明示することによつてすべて申請を受理し許可するならわしであつた。

申請書によつて明らかなとおり本件示威行進等は公共の安ねいを保持する上に直接危険を及ぼすおそれは全くない。

三 集会の自由、表現の自由は憲法で保障された国民の基本的権利であり、もともとこれを規制しようとする札幌市公安条例は憲法に違反することは明らかであるが、特に申請書を示威行進等をする七二時間以前に提出しなければならぬということはなおさら、国民の基本的権利をふみにじるものである。

公安委員会は昭和四五年四月二八日午後二時過ぎから午後七時五〇分まで書類の提出の件につき時間を空趣費しているがこの間に申請を許可するかどうかの判断は容易になし得るところである。

四 右のように結局被申請人は申請書の提出を拒否し申請そのものも許可しないむね表明したところで、本件示威行進等は二〇時間余に迫つており、示威行進に参加しようとする市民百数十名が待機している。

そこで申請人は被申請人を被告として示威行進等の許可を求める訴またほ申請書自体を受理しない不作為に対し作為を求める訴を提起すべく準備中であるが極めて緊急を要するので本申請をする。

許可申請書〈省略〉

デモ行進(集団行進・集団示威行進)コース〈省略〉

別紙二

補充書

申請人 花崎皋平

被申請人 北海道公安委員会

右当事者間の昭和四五年(行ク)第二号仮処分申請事件につき、次のとおり補充書を提出します。

昭和四五年四月二八日

申請人代理人

弁護士 下坂浩介

同 入江五郎

札幌地方裁判所 御中

一、申請人が本件で求めているのは、第一次的には集団示威行進等の許可申請に対する被申請人の不作為に対し緊急の必要があるので作為を求める(行政事件訴訟法二五条二項の反面解釈)ものであり、それが認められないときは民事訴訟法による仮処分(従つて本案も民事々件)、それも認められないときは被申請人の不許可処分(口頭によつて許可もなし難い趣旨の意思表示があつたのでこれを不許可処分と解釈すれば)の効力の停止を求めるものである。

【参考】第二審の主文および理由

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は原決定に不服であるというのみで、その不服の理由は明らかでないが、抗告人の主張する本件申請の趣旨および理由は原決定添付の別紙一、二記載と同じであるから、これを引用する。

そこで検討するに、本件申請の本案訴訟は「抗告人が昭和四五年四月二七日申請した別紙(原決定添付一)記載の集団行進と集団示威行進を許可する。」予備的に「相手方が昭和四五年四月二七日抗告人申請にかかる別紙記載の集団示威運動等の許可申請に対する却下処分を取り消す。」旨の裁判を求めるものであるところ、右集団行進等が行なわれるべき問題の昭和四五年四月二八日午後六時三〇分から午後八時までの時間はすでに経過したことは明らかであるから、本案訴訟についての訴の利益は失われたものというべきである。したがつて、本件申請を、本件集団行進等を仮に許可する旨の仮処分申請とみようが、本件申請却下処分の執行停止申請とみようが、いずれにしても申請の必要性がなくなつたものというべく、本件申請は却下すべきである。

よつて、これを却下した原決定は結局において相当であるから本件抗告は理由がなくこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条により主文のとおり決定する。

(裁判官 武藤英一 神田鉱三 花尻尚)

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